見えない毒.3

プロフィール

限界

カードの請求額がメールで届いた日、頭が真っ白になった。

「20万円……どうやって払えばいいの?」

焦りを感じながらも、スマホを手放せない。だが、川口の投稿を見るたびに、自分がまだ届いていないことを実感する。

「もっとお金をかけないと……もっと、もっと……!」

借金をしてでもフォロワーを増やそうと決心し、ついに消費者金融に手を出す。現実では仕事中も気が散り、友人の誘いを断るようになった。日常はぼろぼろになりつつあったが、スマホの中の自分だけが輝いているように感じていた。

しかし、その「輝き」は次第に薄れていく――やがて、「いいね」やコメントの数が減り始めたことに気づく。

「なんで?こんなに頑張ってるのに……どうして、誰も見てくれないの?」

虚しさだけが胸に残り、画面を見つめる目が乾いていく。

孤立

「佐藤さん、この資料、進捗どうなってる?」

上司の声にハッとする。デスクの上に広げた書類はほとんど手付かず。パソコンの画面には作業途中のファイルが開かれたままだが、その横にはSNSのページが表示されている。

「あ、すみません……今やります!」

慌ててウィンドウを閉じて資料に手を伸ばすが、心はすでに別のところにある。

ピコン!

通知音が鳴り、ついスマホを見てしまう。「いいね」が2件増えているだけだったが、それでも安心感を得る。

「佐藤さん、本当に大丈夫?最近、ミスが増えてるよ」

「す、すみません……次は気をつけます!」

形ばかりの返事をするが、頭の中は次の投稿内容のことでいっぱいだった。

週末、久しぶりに中村美咲から連絡が来た。

「一緒にご飯食べに行かない?この前は私が帰っちゃったしご馳走するからさ。」

待ち合わせたカフェに現れた美咲は少し険しい顔をしていた。

「ねえ、これ……このアカウント知ってる?」

スマホの画面に映されたのは、私の裏アカウントだった。加工された自撮り写真や高級レストランで撮った投稿が並んでいる。

「?!、このアカウントがどうしたの?」

「たまたま見つけたの。なんか投稿内容とか見てたらあなたに似てる気がして‥」

美咲は少し困ったように続けた。

「ねえ……これもしかしてあなた?」

私も裏アカウントを見つけられたと思い、咄嗟に「違うよ。私こんなにキラキラした生活してないし。いいな〜とは思うけど」

美咲は少し安心したような表情なった。

「どうかなー、私には無理してるような感じがするし、なんだか生きにくそう。SNSの周りの顔色気にしたってしょうがないじゃん。」

「何よそれ!美咲に関係ないじゃん!」

美咲の言葉に苛立ちが募る。自分の努力を否定されたような気がして、心がざわつく。

「もういい帰る!」

主人公は立ち上がり、美咲を置いて店を飛び出した。

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