見えない毒.2

小説

対抗心

川口涼香の投稿をまた開いてしまう。フォロワー数はさらに増え、15,500人を超えていた。自分がようやく1万人に到達したばかりなのに、彼女はいつの間にこんなに先を行っているのか。

「なんでこんなに差がつくのよ……」

声に出しても答えなんて返ってこない。スマホの画面に映るのは、彼女の笑顔とおしゃれなカフェの写真。それだけなのに、胸の奥がズキズキする。

「私だって負けてないはずよ……!」

気づけば彼女と同じカフェを検索していた。場所はそんなに遠くない。彼女の最新投稿に映るカフェに行けば、少しでも追いつけるかもしれない。

次の休日、私はそのカフェに足を運んだ。川口涼香の投稿を参考に、同じような構図で写真を撮る。「これで完璧!」とフィルターで加工し、彼女のハッシュタグを真似して投稿する。

「#オシャレカフェ #癒しの時間」

投稿を終え、通知が来るのを待つ。少しずつ「いいね」が増えていくのを見るのは気持ちが良かった。でも、どこか物足りない。

数日後、川口涼香の新しい投稿がアップされた。今度は高級感漂うレストランで、ドレス姿の彼女が写っている。「これじゃ私が行ける場所じゃないじゃない!」とスマホを握り締め、画面を見つめたまま苛立ちを募らせた。

「どうして、どうして……なんであんなに簡単にフォロワーが増えるのよ!」

その時、ふと一つの考えが頭をよぎった。「お金をかければ、彼女に近づけるかもしれない」。

「どうしよう……」

部屋のソファに崩れるように座りながら、スマホを眺める。新しい投稿のいいねは増えたが、フォロワーの数は思ったほど伸びない。

「顔を出しても1万人がやっとなのに……川口涼香はもう1万5千人超え?おかしいでしょ!」

スマホ画面に映る彼女の投稿は、どれもおしゃれで華やか。カフェだけでなく、高級なレストラン、リゾート地での写真が次々にアップされている。

「私だって、もっと目立つ場所に行けば……!」

勢いに任せてスマホで検索を始めた。高評価のレストランや、インフルエンサーが集まると言われる撮影スポットを調べる。しかし、それらはどれも高価だった。

「でも、ここで負けてたらダメだよね……」

財布を取り出して中身を確認する。生活費を差し引けば、残りはほとんどない。目を瞑り、心を決めてクレジットカードを手に取る。

翌週

「こちらが本日のシェフおすすめコースでございます」

銀のトレイに載せられた小さな前菜。値段に見合う量ではないことは分かっている。でも、それを気にしている場合じゃない。

「素敵なレストランに来ちゃいました❤︎」

完璧に加工された写真を投稿する。もちろん、自分の顔も一緒に。投稿するとすぐに「いいね」が増え始め、通知音が連続で鳴る。

「やっぱり!これくらいしないと注目されないんだよね!」

投稿へのコメントはどれも称賛の言葉ばかり。誰も、この一食のためにカードの限度額が近づいているとは知らない。

それから

散財は次第にエスカレートしていった。今度は旅行だ。インフルエンサーたちが行く人気の温泉地へ向かい、高級旅館を予約する。

「贅沢な時間を楽しんでます❤︎」

湯気の立ち上る露天風呂に足を浸す写真。これも加工で雰囲気を盛り上げ、投稿する。反応は良かった。いつも以上に「いいね」が多い。

だが、どこか違和感があった。投稿後の空虚な気持ち。それを埋めるため、次の投稿を考える。さらに華やかで、さらに目立つものを――それだけが頭にあった。

次回は12/7 の16時に投稿を予定しています。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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