第3章:造られた炎
Ravenの指示に従い、翔太はインフルエンサー・梨田陽子に関するさらなる「燃料」を探していた。しかし、過去の投稿だけでは限界があった。批判は広がりつつあったものの、彼女のファンや支持者からの擁護も増え始め、SNS上の声は次第に分裂していった。
焦りを感じた翔太が掲示板に「どうすればいい?」と投稿すると、別のメンバーから冷静な提案が返ってきた。
「証拠を作ればいい。真実なんて、見える形で示せば人は信じるものだ。」
その言葉は翔太の心を揺さぶった。
「証拠を作る…?」
翔太は初め、ためらいを覚えた。フェイクを作ることは一線を越える行為だと理解していた。だが同時に、復讐の炎が心の奥から彼を突き動かしていた。
「もし彼女が自分にしたことと同じ目に遭うなら、それで平等だろう。」
そう自分に言い聞かせながら、翔太はPCの前に座り、作業を始めた。
数日後、翔太は完成したフェイク画像を掲示板に投稿した。
それは梨田陽子が過去に同級生をいじめていたとされる画像だった。
複数の写真を巧妙につなぎ合わせ、梨田が中学生時代に泣き崩れる少女に向かって笑いかけている様子を再現したものだ。さらに、その場に居合わせた教師とされる人物のコメント風のテキストも追加した。
「当時、陽子さんはいじめの主犯格だったことを学校でも問題視していました。」
翔太は掲示板に投稿する際に緊張したが、Ravenから短いコメントが届いた。
「いい仕事だ。」
その言葉に胸が高鳴った。翔太は同時に、自分がしたことの重大さを痛感していた。だが、掲示板のメンバーたちがそのフェイク画像を次々に拡散し、瞬く間にSNS中で話題となっていくのを目にしたとき、得体の知れない高揚感が押し寄せてきた。
SNS上ではフェイク画像を信じた人々が怒りの声をあげ、梨田陽子への非難は一気に激化した。
「いじめ加害者が社会的地位を利用して良い人を演じてる!」
「これは見過ごせない!」
梨田は最初、この騒ぎに対して何のコメントも出さなかったが、次第にその沈黙が新たな批判を生む。
「やっぱり認めたも同然だな」といった声が広がり、彼女のスポンサー契約は次々と打ち切られていった。
翔太はその状況を見て、一瞬だけ「勝利」の感覚を味わった。だが、その一方で胸の奥には冷たい恐怖が忍び寄っていた。
「もしこれがバレたらどうなる?」
「自分も同じ目に遭うんじゃないか?」
夜、布団に潜り込んでもスマートフォンを手放せなかった。梨田陽子の謝罪動画が公開されると、翔太はその涙を見て安堵とともに罪悪感を覚えた。
「俺がやったことは、本当に正しかったのか…?」
だが、その疑問を振り払うように、Ravenの投稿を確認した。
「これが正義だ。私たちは正しい。」
その言葉に一時的に安心しつつも、翔太の不安は消えることはなかった。
コメント